アジア間美術史プロジェクト
メンバー:
池田篤史(インド芸術文化推進機構 代表理事)
二村淳子(関西学院大学 教授)
山本浩貴(実践女子大学 准教授)
山本緑(東大阪大学 准教授)
五十嵐潤美(岡山大学 専任講師)
門井由佳(ウィーン大学 研究員)
江上賢一郎(東京藝術大学 特任助教)
佐々木玄太郎(福岡アジア美術館 学芸員)
藪本雄登(秋田公立美術大学 博士課程)
JOPIACが現在取り組んでいる「アジア間美術史」プロジェクトについて紹介します。皆さん、アジア主義をご存知ですか?日本を盟主にアジアが連帯して西洋列強に対抗するという、戦前にあった政治思想です。大東亜共栄圏という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、大東亜共栄圏構想はアジア主義の最終形態です。
一方、アジア間美術史とは、従来は西洋美術の対概念として想定されていたアジア美術を、東アジア美術や南アジア美術などの独立した美術の複合体として再定義するものです。最大の特徴は「アジア的」や「アジアらしさ」などのアジア性の存在を否定していることです。実はアジア主義は明治期に生きた岡倉天心の美術論が思想的な基盤になっていて、アジア間美術史は「アジアは一つ」から「多様なアジア」へのアジア観の転換を提唱するものです。
アジア主義は当時の時代状況を鑑みると一定の合理性があり、大東亜戦争に至ってしまったのかもしれません。しかし、現在の世界情勢は100年前とは異なっており、現代に生きる人々がアジア主義の思想を持つことは安全保障上の危険を伴います。例えば、過去に戦火を交えたアメリカ、イギリス、オーストラリアなどは、現在の日本の安全保障上の重要なパートナーです。過去の大戦における悲劇を繰り返さないために必要なのは、情緒に訴えるナショナリズムやアジア主義ではなく、客観的事実に基づく合理的判断ではないでしょうか。
アジア主義に代わる世界観を提示するのは研究者の社会的使命であり、アジア間美術史は新しいパラダイムになり得ると考えています。